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第五 千づかの稲(5-25~5-28) [第五 千づかのいね]

    三月尽
5-25 ゆく春を小塩(おしお)の曲(ふし)せや一奏(かなで)
    老驥伏櫪/志在千里
     烈士暮年/壯心不已(止)
5-26 唾壺も四ツ迄たゝく水鶏かな

5-27 妹許(いもがり)の桜煙草や十三夜

5-28 鵰(くまたか)の枝踏むおとや冬木だち


  三月尽
5-25 ゆく春を小塩(おしお)の曲(ふし)せや一奏(かなで)

「前書」の「三月尽」も季語(晩春)である。

https://kigosai.sub.jp/001/archives/15314

 「三月尽」(晩春)=陰暦三月(弥生)が尽きること。陰暦では一月から三月が春であるため、三月は春の最後の月。春が終わるという感慨や、行く春を惜しむ気持ちが込められる。陽暦では三月は春の終わりではないので、惜春の思いはない。

(例句)

弥生尽ものうしなへるこころかな 嘯山「葎亭句集」

 季語は、「ゆく春(行く春)」(晩春)」=「まさに過ぎ去ろうとする春をいう。ことに春は厳しい寒さの中で待ち望んだ季節だけに送るのは惜しい。「春惜しむ」というと、さらに愛惜の念が強くなる。」(「きごさい歳時記」)

(例句)

行はるや鳥啼うをの目は泪   芭蕉「奥の細道」
行春を近江の人とをしみける  芭蕉「猿蓑」
行春にわかの浦にて追付きたり 芭蕉「笈の小文」

「小塩(おしお)」=「能の曲目。四番目物。五流現行曲。金春禅竹(こんぱるぜんちく)作。小塩山のある洛西(らくせい)の大原野(おおはらの)に桜狩にきた都人(ワキ)の前に、花を肩にした老人(前シテ)が現れ、二条の后(きさき)と在原業平(ありわらのなりひら)の故事を物語る。後段は業平の霊(後シテ)が在りし日の優姿で花見車に乗って登場し、月と花の美しさをたたえ、優雅な舞を舞う。『雲林院(うんりんいん)』と似た主題だが、花にあこがれるはなやかさがこの曲に濃い。女性をシテとする三番目物の幽玄能に準じて扱われる。[増田正造]」(「日本大百科全書(ニッポニカ)」)

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/05/5-255-28.html

「能:小塩(おしお)」=「花見車」の在原業平

https://www.nohbutai.com/contents/05/01a/5osio.htm

「句意」は、まさに「弥生尽」、芭蕉翁は、「行春を近江の人とをしみける」の名吟を遺している。されば、「能:小塩(おしお)」の曲(ふし)にて、「月やあらぬ春や昔の春ならぬ 我が身ひとつはもとの身にして」(「伊勢物語第四段」「古今集一五・七四七」)の一声を奏でることにする。


     老驥伏櫪/志在千里
    烈士暮年/壯心不已(止)
5-26 唾壺も四ツ迄たゝく水鶏かな

 この前書の「老驥伏櫪/志在千里/烈士暮年/壯心不已(止)」の、「老驥伏櫪/志在千里」は、「ろうき【老驥】=櫪(れき)に伏(ふ)すとも志(こころざし)千里(せんり)に在(あ)り」で、「(「曹操‐碣石篇」の「老驥伏レ櫪、志在二千里一、烈士暮年、壮心未レ已」による語) 駿馬は老いて厩(うまや)につながれても、なお千里を走ることを思うこと。英雄、俊傑の老いてもなお志を高くもって英気の衰えないさまのたとえ。老驥千里を思う。※仮名草子・可笑記(1642)四「実に老驥櫪に伏して心ざし千里といへり、いはんやわかきこの身をや」」(「精選版 日本国語大辞典」)

https://kanshi.roudokus.com/hosyutsukamonkou.html

歩出夏門行(ほしゅつかもんこう) 曹操(そうそう)
神龜雖壽  神龜(じんき)は寿(いのちなが)しといえども
猶有竟時  猶(なお)竟(おわ)る時あり
騰蛇乘霧  騰蛇(とうだ)は霧(きり)に乗(じょう)ずるも
終爲土灰 終(つい)には土灰(どかい)となる
老驥伏櫪  老驥(ろうき)は櫪(れき)に伏すも
志在千里  志(こころざし)は 千里にあり
烈士暮年  烈士暮年(れっしぼねん)
壯心不已  壮心(そうしん)やまず
盈縮之期  盈縮(えいしゅく)の期(き)は
不但在天  但(ただ)に 天のみに在(あ)らず
養怡之福  養怡(ようい)の福(ふく)は
可得永年  永年(えいねん)を得(う)べし
幸甚至哉  幸(こう)甚(はなは)だ至(いた)れる哉(かな)
歌以詠志  歌いて以(もっ)て志(ここざし)を詠(えい)ず


5-26 唾壺(たんつぼ)も四ツ迄たゝく水鶏かな

 季語は「水鶏」(三夏)=「夏、水辺の蘆の茂みや水田などに隠れて、キョッキョッキョキョと高音で鳴く鳥。古来、歌に多く詠まれてきたのは緋水鶏で、その鳴声が、戸を叩くようだとして「水鶏叩く」といわれる。」(「きごさい歳時記」)

「唾壺」(たんつぼ・だこ)=「① 唾(つば)をはき入れる壺。たんつぼ。※延喜式(927)六「斎王定畢所レ請雑物。膳器、銀飯鋺一合、〈略〉銀唾壺一口。② タバコ盆の灰吹き。吐月峰(とげっぽう)。※東京新繁昌記(1874‐76)〈服部誠一〉三「其の説く所、唾壺大虵(〈注〉ハイフキからだいじゃ)の説に異ならずと雖も、説法家の拙法の企て及ぶ所に非ず」(「精選版 日本国語大辞典」)

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/05/5-255-28.html

※延喜式(927)六「斎王定畢所レ請雑物。膳器、銀飯鋺一合、〈略〉銀唾壺一口。

「四つ」=「④ 中古から近世における時刻の呼び方。現在の午前一〇時または午後一〇時にあたる。※蜻蛉(974頃)中「初夜おこなふとて〈略〉念数するほどに、時は山寺、わざの貝、よつふくほどになりけり」(「精選版 日本国語大辞典」)

「句意」は、吾も「老驥(ろうき)」と、いささか「老い」たが、されど、「志(こころざし)在千里(千里に在り)」で、「緋水鶏」が、「四つ」ならず、「四六時中」、「銀の唾壺(だこ)」を「叩く」ょうに、一心不乱に句作に興じている。


5-27 妹許(いもがり)の桜煙草や十三夜

 季語は「十三夜(後の月)」(晩秋)=「旧暦九月十三夜の月。八月十五夜は望月を愛でるが、秋もいよいよ深まったこの夜は、満月の二夜前の欠けた月を愛でる。この秋最後の月であることから名残の月、また豆や栗を供物とすることから豆名月、栗名月ともいう。」(「きごさい歳時記」)

(例句)

木曾の痩せもまだなほらぬに後の月 芭蕉 「笈日記」
三井寺に緞子の夜着や後の月    蕪村 「夜半叟句集」

「妹許(いもがり・いもらがり)」=「(「がり」は接尾語) 妻、恋人の住んでいる所(へ)。妹(いも)のもと(へ)。いもらがり。※万葉(8C後)九・一七五八「筑波嶺の裾廻(すそみ)の田井に秋田刈る妹許(いもがり)遣(や)らむ黄葉(もみぢ)手折らな」」(「精選版 日本国語大辞典」)

(例句)

顔見世や夜著をはなるゝ妹が許  蕪村「蕪村自筆句帳・蕪村句集」
雪解や妹が炬燵に足袋片シ    蕪村「蕪村遺稿集」

「桜煙草」=「桜皮細工の煙草盆」=「火入れ・灰吹きなどの喫煙具をのせる盆や小さな箱」(「デジタル大辞泉」)

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/05/5-255-28.html

「煙草盆」(茶道の道具)

http://verdure.tyanoyu.net/tabakobon.html

≪煙草盆(たばこぼん)は、火入(ひいれ)、灰吹(はいふき)、煙草入(たばこいれ)、煙管(きせる)、香箸(こうばし)など、喫煙具一式を納めておく道具です。煙草盆は、「莨盆」とも書き、煙草盆、火入、灰吹、煙草入、煙管一対を、煙草盆一式あるいは煙草盆一揃などといいます。≫

(例句)

たばこ盆足で尋る夜寒哉     一茶 「文化十四年丁丑(五十五歳)」
今春が来たよふす也たばこ盆   一茶 「文政二年己卯(五十七歳)」

「句意」は、今日は「後の月」の「十三夜」、親しい女性の茶室で、愛用の「桜皮細工の煙草盆」を愛でながら、薄茶を飲みつつ栗名月を愉しんでいる。


5-28 鵰(くまたか)の枝踏むおとや冬木だち

 季語は「冬木立」(三冬)=「冬の樹木「冬木」が群立しているさまをいう。落葉樹も常緑樹も冬木ではあるが、葉を落とした冬枯れの裸木の木立は、鬱蒼と茂る夏木立と対照的にものさびしいものである。」(「きごさい歳時記」)

(例句)

斧入れて香におどろくや冬木立  蕪村「秋しぐれ」
郊外に酒屋の蔵や冬木だち    召波「春泥発句集」
冬木だち月骨髄に入る夜かな   几董「井華集」

「鵰(くまたか)」=「クマタカ(角鷹、熊鷹、鵰、Nisaetus nipalensis)は、鳥綱タカ目タカ科クマタカ属に分類される鳥。日本に分布するタカ科の構成種では大型であることが和名の由来(熊=大きく強い)。胸部から腹部にかけての羽毛は白く咽頭部から胸部にかけて縦縞や斑点、腹部には横斑がある。尾羽は長く幅があり、黒い横縞が入る。翼は幅広く、日本に生息するタカ科の大型種に比べると相対的に短い。これは障害物の多い森林内での飛翔に適している。翼の上部は灰褐色で、下部は白く黒い横縞が目立つ。」(「ウィキペディア」)

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/05/5-255-28.html

「クマタカ(角鷹、熊鷹、鵰)」(「ウィキペディア」)

「鷹(熊鷹)」も「三冬」の「季語」だが、この句の主たる季語は「冬木だち」で、「鵰(くまたか)」は、それに彩りを添える従たる季語ということになる。

「句意」は、「冬木だち、鵰(くまたか)の枝踏む音や、骨髄に凍み渡る。」
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