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第六 潮のおと(6-27~6-30) [第六 潮のおと]

    初幟を祝ひて
6-27 犗(ウシ)を餌に釣上げたりな吹ながし

 季語は「吹きながし」(初夏)。「犗(うし・カイ)」=去勢された牛。[字音] カイ、[字訓] うし。」(「普及版 字通」)

 前書の「初幟を祝ひて」は、「男児の初節句を祝って立てる幟。また、その祝い」のこと。掲出句の「吹きながし」は、下記の「武家の端午の節句(尚武の節句)」=「五色の吹き流し+家紋の幟+絵幟(「鍾馗」幟など)の「五色の吹き流し」で、「商家の端午の節句(鯉のぼり)=鯉の吹き流し)」ではない。

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/07/6-276-30.html


歌川広重(初代)「名所江戸百景/水道橋駿河台/大判錦絵 /安政4年(1857)」(国立国会図書館デジタルコレクション)

https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/data/post-42.html

https://hiroshige-ena.jp/collections/major-works/7

≪《名所江戸百景》は、広重の絶筆となった揃物です。近接拡大したモティーフを手前に描き極端なまでに遠近を強調する構図は、晩年の広重が多用したものです。現在“子どもの日”として馴染み深い端午の節句ですが、庶民にも親しまれる行事として広まったのは江戸時代のこと。端午の節句は古代中国の行事に由来し、日本では厄払いの儀式と結びつき、中世に入って男児の成長を祝う節句として定着していきました。画中の遠景に見えるように、江戸の武家屋敷では五色の吹き流しや幟(のぼり)を立てました。その前面に鯉のぼりが、ひときわ大きく描かれています。町人の家では幟飾りを揚げることが禁じられていたため、代わって鯉のぼりが立てられるようになりました。鯉のぼりは5月の江戸の風物詩でした。富士山よりも高く、力強く天に上るこの作品の鯉の姿は、安政の大地震(1855年発生)の被害を受けた町の復興を象徴しているともいわれています。≫(「中山道広重美術館」解説)

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/07/6-276-30.html

左:歌川広重画「水道橋駿河台(全体図)」=「商家の端午の節句(鯉のぼり)=鯉の吹き流し)

右:同上の「部分図」=「武家の端午の節句(尚武の節句)」=「五色の吹き流し+家紋の幟+絵幟(「鍾馗」幟など)

「句意」は、「五月の端午の節句に、江戸の市中では、『鯉の吹き流し』が威勢良いが、ここ、旗本の武家の、端午の節句(尚武の節句)では、去勢された牛を餌に釣り上げたような、『鯉のぼり』に非ざる『形なき巨大な吹き流し』のみが、風に靡いている。」


6-28 やよ水鶏さいたる門を敲とは

 「季語」は、「水鶏」(三夏)。「夏、水辺の蘆の茂みや水田などに隠れて、キョッキョッキョキョと高音で鳴く鳥。古来、歌に多く詠まれてきたのは緋水鶏で、その鳴声が、戸を叩くようだとして『水鶏叩く』といわれる。」(「きごさい歳時記」)

(参考歌)

水鶏だにたゝけば明くる夏の夜を心短き人や帰りし 「よみ人しらず『古今六帖』」
水鶏だに敲く音せば槙のとを心遣にもあけて見てまし「和泉式部『家集』」

「水鶏はたたく」=「くひなのうちたたきたるは 誰が門さしてとあはれにおぼゆ」(紫式部「源氏物語」) 

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/07/6-276-30.html

「水鶏にだまされて・部分図 (石川豊信)」({高橋浮世絵コレクション})
https://dcollections.lib.keio.ac.jp/ja/ukiyoe/1527

≪ 「だまされて姿はつかし水鶏(くいな)かな」 蚊帳の中から出て立つ、あられもなき姿の女。手に団扇をもち、気ぜわしく寝所から出てきたようすがうかがわれる。夏の鳥である水鶏は、古来「叩く」と形容される鳴き声で知られるところから、図は待ち人が来て戸を叩く音と鳥の鳴き声を勘違いした女の心模様と仕草とを、絵画化したものとわかる。 石川豊信は奥村政信の影響を受けながら人気絵師の仲間入りを果した。紅摺絵と呼ばれる簡素な色摺版画の時代に、本図のようにセクシャルな「あぶな絵」を含む数多くの美人画を世に送り出している。≫(「慶応義塾大学メディアデジタルコレクション」)

「句意」は、「『水鶏はたたく月下の門』、今、まさに、水鶏が、この狭い、水の裂け目を叩いている。」


6-29 突ふるせ神の切けん此藜(あかざ)

季語=「藜(あかざ)」(三夏)=「藜(アカザ)は、北海道から沖縄まで全国的に分布するアカザ科の一年草で、若葉には赤色の粉粒が密集するのでわかりやすい。人里周辺の畑や荒地などで見られる。茎は乾燥すると固くなるため、昔から杖として利用されてきた。近縁の種としては、葉が白くなるシロザが存在する。」(「きごさい歳時記」)

(例句)

やどりせむ藜の杖になる日まで  芭蕉「笈日記」
おもひ出や藜の杖の肩過ぎぬ   大魯「題葉集」

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/07/6-276-30.html

漱石自筆の猫画「あかざと黒猫図」=神奈川近代文学館蔵

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20160520003948.html

子規の「藜」の句

https://fudemaka57.exblog.jp/25786955/

しくるゝや藜の杖のそまる迄  「子規・ 時雨」
わびしさや藜にかゝる夏の月  「子規・夏の月」
五月雨は藜の色にしくれけり  「子規・五月雨」
五月雨は藜の色を時雨けり   「子規・五月雨」
空寺や藜箒木など茂る     「子規・草茂る」
箒木にまじりて青き藜哉    「子規・藜」
老かはで藜の杖にのこしけり 「子規・ 藜」

「句意」は、「この神が切り割いて作ってくれた」、この『藜(あかざ)の杖』よ、どうか、この旅路の最期まで、突き古していただきことよ。」


6-30 売薬が黒き扇の暑かな

 季語は「暑さ(し)」(三夏)。「売薬」は、「あらかじめ調剤しておいて売る薬、また、その薬売る人」のこと。「黒き扇」は、「黒い(「厄災から身を守る」という意があるとされる)、紙扇の『夏扇』」で『蝙蝠扇』(「蝙蝠」=「コウモリ」=「幸守り・幸盛り」で吉祥ものの意もあるとされている)ともいわれる。

「句意」は、「この暑さの『売薬』には、何はともあれ、身近にある、『災厄から身を守る』という「黒い」、そして、団扇ではなく、『幸守り・幸盛り』の意が込められているという『蝙蝠扇』で、当面凌ぐとするか。」

 この抱一の句は、其角の「まんぢうで人を尋ねよ山ざくら」(『去来抄(「同門評」)』) の句に関連しての、「聞句(ききく)」(「謎句」「謎句仕立て」など)の系統に属する句で、句意が人によって、色々に取れる、多義性の「句作り」といえよう。そして、この「謎句」については、その背景に、その時代の「世相・風俗」などの「風刺」的な作意と深く関与しているものが多く、この句も、当時の、次の「枇杷葉湯(ようとう)売り」(鍬形蕙斎画)などと深く関与している一句なのかも知れない。

 ちなみに、この「枇杷葉湯(ようとう)売り」を描いた「鍬形蕙斎」(浮世絵師・北尾政美)は、「太田南畝・亀田鵬斎・谷文晁」らと共に、抱一と深い関係にある「八尾善」(『江戸流行料理通』発刊)の常連メンバーの一人でもある。

(参考)

(画像) → https://yahantei.blogspot.com/2023/07/6-276-30.html

「近世職人尽絵詞」中「枇杷葉湯売り」(鍬形蕙斎画)

https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/481541

https://ameblo.jp/tachibana2007/entry-10309097502.html



≪ 「江戸の生業・枇杷葉湯売り」 

  枇杷黄なり空はあやめの花曇り  素堂

 江戸の頃は現在では考も及ばないような商いがいくつかあります。そのひとつが枇杷葉湯(ビワヨウトウ)売りです。

 広辞苑によれば、

『ビワ』の葉に肉桂・甘草・莪蒁(がじゅつ)・甘茶などを細かく切って混ぜ合わせたもの煎汁。清涼飲料として用い、暑気あたりや痢病を防ぐ効能がある。京都烏丸に本家があり、江戸では馬喰町山口屋又三郎の店がこれを扱い宣伝用に路傍で無料で飲ませた』

 とありますが、天明元年(1781年)には、江戸の街を売り始めたといいます。

  『真っ黒になって商う烏丸』(柳多留57)
  『真っ昼間目ばかり光る烏丸』』(柳多留121)

 4月上旬から8月下旬までの商いです。

  『売りながら枇杷葉湯は達くらみ』(俳諧ケイ20)

 中には夏の暑さにあてられる枇杷葉湯売りも出ます。

 精選版 日本国語辞典 小学館)には

『山口屋又三郎が販売した。「本家京都烏丸、枇杷葉湯山口又三郎」と記した長方形の箱の中に、茶釜・茶碗などを入れ、天秤で担いで、往来で煎じて飲ませた…、店頭に調整していたものを通行人には無料で飲ませた』 とあります。 (以下略)  ≫
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