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第四 椎の木かげ(4-3) [第四 椎の木かげ]

4-3 乙鳥や汲(くん)ではなせし桔槹(はねつるべ)

季語=乙鳥(おつどり)=燕(つばめ)仲春

https://kigosai.sub.jp/001/archives/1971

【子季語】 乙鳥、乙鳥(おつどり)、玄鳥、つばくら、つばくろ、飛燕、濡燕、川燕、黒燕、群燕、諸燕、夕燕 燕来る、初燕
【関連季語】 夏燕、燕帰る、燕の子
【解説】 燕は春半ば、南方から渡ってきて、人家の軒などに巣を作り雛を育てる。初燕をみれば春たけなわも近い。
【来歴】 『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
燕来る時になりぬと雁がねは国思ひつつ雲隠り鳴く 大伴家持『万葉集』
【実証的見解】
ツバメはスズメ目ツバメ科の夏鳥で、日本には二月下旬から五月にかけて渡ってくる。雀よりやや大きい。背は黒く腹は白い。喉と額が赤く、尾に長い切れ込みがある。翼が大きくよく飛ぶが、脚は短く歩行に不向きで、地面に降りることはめったにない。食性は肉食で、空中にいる昆虫などを捕食する。人が住むところで営巣する傾向がある。これは、天敵である鴉などが近寄りにくいからだとされる。
【例句】
盃に泥な落しそむら燕 芭蕉「笈日記」
蔵並ぶ裏は燕の通ひ道 凡兆「猿蓑」
夕燕我にはあすのあてはなき 一茶「文化句帖」
海づらの虹をけしたる燕かな 其角「続虚栗」
大和路の宮もわら屋もつばめかな 蕪村「蕪村句集」
大津絵に糞落しゆく燕かな 蕪村「蕪村句集」
つばくらや水田の風に吹れ皃(がほ) 蕪村「蕪村句集」
燕啼て夜蛇をうつ小家哉 蕪村「蕪村句集」

※はね‐つるべ【撥釣瓶】=支点でささえられた横木の一方に重し、他の一方に釣瓶を取りつけて、重しの助けによってはね上げ、水をくむもの。桔槹(けっこう)。〔色葉字類抄(1177‐81)

(画像)→ http://yahantei.blogspot.com/2023/01/4-3.html

(「精選版 日本国語大辞典」)

「句意」(その周辺)

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2019-05-17

花鳥巻春四.jpg

酒井抱一筆『四季花鳥図巻(上=春夏・下=秋冬)』「春(四)」東京国立博物館蔵
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0035815

花鳥巻四拡大.jpg

(同上:部分拡大図)

【上図の中央は、枝垂れ桜の樹間の枝の合間を二羽の燕が行き交わしている図柄である。右側には「春(三)」の続きの地上に咲く黄色の菜の花、左側には、これまた、右側の菜の花に対応して、黄色の連翹の枝が、地上と空中から枝を指し伸ばしている。
この行き交う二羽の燕が、これまでの地面・地上から空中へと視点を移動させる。さらに、枝垂れ桜のピンクの蕾とその蕾が開いた白い花、それらを右下の黄色の菜の花と、左上下の黄色の連翹、さながら色の協奏を奏でている雰囲気である。その色の協奏とともに、この二羽の燕の協奏とが重奏し、見事な春の謳歌の表現している。】

 句意は、「撥ね釣瓶で水を汲んでいる。その横木の一方の重しと、もう一方の釣瓶の所を、上下に、二羽の燕が、空中で行ったり来たりしている。」
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第四 椎の木かげ(4-2) [第四 椎の木かげ]

4-2 とぶ迄を走(り)つけたる春雉(きぎす)哉 → 「雉」

季語=春雉(きぎす)→雉(きじ)三春

https://kigosai.sub.jp/001/archives/1985

【子季語】雉子、きぎす、きぎし、雉子の声、焼野の雉子
【関連季語】雉酒、雉笛、雉の巣
【解説】雉の雄は、春、「けーんけーん」と鳴いて雌を呼ぶ鳥である。飛ぶ姿よりも歩いている姿を見かけることが多い。「春の野にあさる雉(きぎし)の妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ 大友家持『万葉集』」のように、妻恋の象徴として詠われていた。
【来歴】『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【文学での言及】
春の野のしげき草葉の妻恋ひに飛び立つ雉のほろろとぞ鳴く 平貞文「夫木和歌抄』
【実証的見解】
雉は、キジ目キジ科の鳥で日本の国鳥である。北海道と対馬を除く日本各地に留鳥として棲息している。大きさは雄八十センチ前後で雌は六十センチくらい。雄は全体的に緑色をおびており、目の周りに赤い肉腫がある。雌は全体的に茶褐色。雌雄ともニワトリ似て尾は長い。繁殖期の雄は赤い肉腫が肥大し、なわばり争いのため攻撃的になり、ケンケンと鳴いて翼を体に打ちつける「雉のほろろ」と呼ばれる行為をする。
【例句】
父母のしきりに恋ひし雉子の声 芭蕉「笈の小文」
ひばりなく中の拍子や雉子の声 芭蕉「猿蓑」
蛇くふときけばおそろし雉の声 芭蕉「花摘」
うつくしき顔かく雉の距(けづめ)かな 其角「其袋」
滝壺もひしげと雉のほろろかな 去来「続猿蓑」
柴刈に砦を出るや雉の聲 蕪村「蕪村句集」
亀山へ通ふ大工やきじの聲 蕪村「蕪村句集」
兀山(はげやま)や何にかくれてきじのこゑ 蕪村「蕪村句集」
むくと起て雉追ふ犬や宝でら 蕪村「蕪村句集」
木瓜の陰に皃類ひ住ムきゞす哉 蕪村「蕪村句集」
きじ啼や草の武藏の八平氏 蕪村「蕪村句集」
きじ鳴や坂を下リのたびやどり 蕪村「蕪村句集」
遅キ日や雉子の下りゐる橋の上 蕪村「蕪村句集」
雉啼くや暮を限りの舟渡し 几菫「晋明集二稿」
雉子の尾の飛さにみたる野風かな 白雄「白雄句集」

「句意」(その周辺)

「十鳥千句独吟」のトップの、「4-1 うぐゐすに北野の絵馬(えうま)かゝりけり」の、その「鶯」が、「北野天満宮」の「菅原道真(菅贈太政大臣)』の『鶯』」の一首にあやかっての、序句的な「鶯」の句と解すると、この二句目の「とぶ迄を走(り)つけたる春雉(きぎす)哉」の「春雉(きぎす)」は、次の「雉始雊 (きじはじめてなく)」を踏まえての、ここから、「十鳥千句独吟」の、実質的なスタートの、その発句ということになろう。

【 小寒の歳時記・季寄せ
二十四節気 / 小寒
七十二候 /
第六十七候(初候)芹乃栄(せりさかう)1/6〜1/10(2020)
第六十八候(次候)水泉動(すいせんうごく)1/11〜1/15 (2020)
第六十九候(末候)雉始雊 (きじはじめてなく) 1/16〜1/19(2019) 】

句意は、「春を告げる、『雉始雊 (きじはじめてなく)』の、その『春雉(きぎす)』は、飛ぶというよりも、その助走的な、野辺を『歩きに歩いている姿であることよ。』」

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2019-06-21

花鳥巻春二.jpg

酒井抱一筆『四季花鳥図巻(上=春夏・下=秋冬)』「春(二)」東京国立博物館蔵
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0035813

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-05-14

その「春(一)」で描いた「蒲公英・木瓜・菫・すぎな(つくし)・薺・白桜草」などに、新たに「虎杖(いたどり)」と「雉(きじ)と母子草」を描いている(『日本の美術№186酒井抱一(千澤梯治編)』)。

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第四 椎の木かげ [第四 椎の木かげ]


4-1 うぐゐすに北野の絵馬(えうま)かゝりけり

季語=鶯(うぐいす、うぐひす、うぐゐす)=三春

https://kigosai.sub.jp/001/archives/1969#:~:text=%E9%B6%AF%E3%81%AF%E3%80%81%E6%98%A5%E3%82%92%E5%91%8A%E3%81%92%E3%82%8B,%E9%B3%A5%E3%81%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%80%82

【子季語】 黄鶯、匂鳥、歌よみ鳥、経よみ鳥、花見鳥、春告鳥、初音、鶯の谷渡り、流鶯、人来鳥
【関連季語】 笹鳴、老鶯
【解説】
鶯は、春を告げる鳥。古くからその声を愛で、夏の時鳥、秋の雁同様その初音がもてはやされた。梅の花の蜜を吸いにくるので、むかしから「梅に鶯」といわれ、梅につきものの鳥とされてきた。最初はおぼつかない鳴き声も、春が長けるにしたがって美しくなり、夏鶯となるころには、けたたましいほどの鳴き声になる。
【来歴】 『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
鶯の谷より出づる声なくは春来ることをたれかしらまし 大江千里『古今集』
【実証的見解】
鶯はスズメ目ウグイス科ウグイス属の留鳥で、日本各地の山地の明るい笹薮などに生息する。体長十五センチくらいで、雀ほど。背がみどりがかった茶褐色で、腹はやや白っぽい。食性は雑食で、春から夏に虫を捕食し、秋や冬には木の実や植物の種子などを食べる。時鳥の托卵の対象となる。
【例句】
鶯や柳のうしろ藪の前  芭蕉「続猿蓑」
鶯や餅に糞する縁のさき 芭蕉「葛の松原」
鶯を魂にねむるか矯柳(たうやなぎ) 芭蕉「虚栗」
鶯の声や竹よりこぼれ出る 才磨「塵の香」
鶯や下駄の歯につく小田の土 凡兆「猿蓑」
鶯の声遠き日も暮にけり 蕪村「蕪村句集」
鶯の啼やちいさき口明て 蕪村「蕪村句集」
どこでやらで鶯なきぬ昼の月 士朗「枇杷園句集」
鶯の静かに啼くや朝の雨 成美「いかにいかに」

※「十鳥千句独吟」(前書)=「千句独吟」というのは、「連歌・俳諧(連句)」の「百韻」(発句から挙句 (最後の句) までの1巻が 100句から成る形式)のものを「十巻」(一巻=百句、十巻=千句)、「独吟」(独りで作句する。他の人と付合(つけあい)をしないで、一巻を一人でよむこと)、すなわち、「十百韻」(百韻を「十巻(とまき)」、すなわち千の句を続けて詠む形式のもの)の意であろう。そして、「十鳥」というのは、その「十巻」の巻頭の「発句」に、それぞれ、「鳥」を詠むという意の、その「十鳥」と解する。

※「北野の絵馬(えうま・えま)」=この「北野」は全国天満宮の総祀(総本社)の、京都の「北野天満宮」(「連歌・俳諧」のメッカ、嘗て「連歌所」があった)の、その「北野」、そして、「絵馬」は、そこに奉納する「絵馬」の「絵馬所」があり、それらに関連する「絵馬」(奉納絵馬・奉納俳諧など)の意と解したい。

「句意」(その周辺)

 この句は、『屠龍之技』の「第四 椎の木かげ」の冒頭の一句である。この「椎の木かげ」は、その「第三 みやこどり」の、寛政五年(一九五三)に移住した、隅田川東岸の、本所番場の「酒井家下屋敷(別邸)」周辺(この東岸の北側=下部を下がる付近)の、「隅田川を往来する猪牙舟(ちょきぶね)がランドマークしたという旧平戸藩邸」の、その「椎の木」のようである。(『酒井抱一・玉蟲敏子著・日本史リーフレット54』 )

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2023/01/blog-post_31.html

「本所番場・酒井家下屋敷(酒井下野守)=A図」(隅田川東岸)と「駒形堂」(隅田川東岸)
http://codh.rois.ac.jp/edo-maps/iiif-curation-viewer/?curation=http://codh.rois.ac.jp/edo-maps/owariya/16/1852/ndl.json&mode=annotation&lang=ja

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2023/01/blog-post_31.html

「切絵図に見る江戸時代の駒形堂)=B図」(隅田川西岸)
https://tokyo-trip.org/spot/visiting/tk0309/

 上記の「本所番場・酒井家下屋敷(酒井下野守)=A図」の、「多田薬師こと東暫寺(とうざんじ)の南隣(この図の「酒井下野守」屋敷)で、「夏は西日が激しく」、対岸の「駒形堂」付近の住居と、この「切絵図に見る江戸時代の駒形堂)=B図」の、「駒形の渡し」付近の、「隅田川の東岸と西岸」を往来するような遷住生活であったようなことが、『軽挙館句藻』に記されているようである。(『酒井抱一(井田太郎著・岩波新書)』)
 この句の句意には、この「うぐゐすに北野の絵馬(えうま)かゝりけり」の「北野」に仕掛けがあるようで、これは、京都の「北野天満宮」の、菅原道真(菅贈太政大臣)の、次の「鶯」の和歌を踏まえているような雰囲気なのである。

谷ふかみ春のひかりのおそければ雪につつめる鶯の声(『新古金和歌集』1441)
ふる雪に色まどはせる梅の花鶯のみやわきてしのばむ(『新古金和歌集』1442)

この道真の二首目の「ふる雪に」の「に」の措辞が、抱一の句の「うぐゐすに」の「に」の措辞と同じ用例のようで、この用例などを踏まえると、「学問の神様・和歌の神様・連歌、俳諧の神様」の、「北野天満宮」の「菅原道真(菅贈太政大臣)」にあやかって、この「十鳥千句独吟」のスタートの発句の「鳥」は「うぐゐすに」というのが、その背景にあるものと解したい。
 そして、さらに、この「絵馬かゝりけり」の「絵馬」も、「えま」ではなく「えうま」または「えこま」の詠みということになろう。「え・こま」というのは、「(第一)こがねのこま(金馬門=大手門)」の、南畝・抱一らの「座」(連句会・俳句会)の暗号的・符丁(合言葉)的な意が、この「こま」(駒=馬)のようなのであるが、ここでは、「絵・馬(うま)」の詠みのように解したい。そして、それは、「北野天満宮」の道真の「一願成就のお牛さま」に連動していて、ここでは、「一願成就のお馬さま」というのが、この句の抱一の趣向ということになろう。
 句意は、「談林俳諧の祖の『西山宗因千句』に因んで、ここに『十鳥千句独吟』に挑むことにした。そのスタートの発句に、『北野天満宮』の『菅原道真(菅贈太政大臣)』の『鶯』の一首にあやかって、『鶯』を据え、その作句の座の掛軸として、『一願成就のお牛さま」』ならず、『一願成就のお馬さま』の絵軸を掲げることにした」というようにして置きたい。」

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2023/01/blog-post_31.html

「一願成就のお牛さま」(北野天満宮境内の北西に位置する牛舎にお祀りされている臥牛は、当宮で最も古いものであると伝わっており、少なくとも江戸時代にはすでに、「一願成就のお牛さま」として親しまれていたことがわかっています。)
https://kitanotenmangu.or.jp/story/%E5%8C%97%E9%87%8E%E5%A4%A9%E6%BA%80%E5%AE%AE%E3%81%A8%E7%89%9B/

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2023/01/blog-post_31.html

「酒井抱一: 梅に鶯」(部分図) 19世紀 183.5×46.5 cm メトロポリタン美術館
http://blog.livedoor.jp/a_delp/2021-01-02_SakaiHouitsu

(参考=未整理)「十鳥千句独吟」周辺

4-1 うぐゐすに北野の絵馬(えうま)かゝりけり → 「鶯」
4-2 とぶ迄を走(り)つけたる春雉(きぎす)哉 → 「雉」
※春雉《きぎし》鳴く高円《たかまと》の辺に桜花散りて流らふ見む人もがも~作者未詳 『万葉集』 巻10-1866 雑歌
4-3 乙鳥や汲(くん)ではなせし桔槹(はねつるべ)→「乙鳥」(おつどり・つばくら・つばくろ・つばめ)
4-4 ほとゝぎす鳴(く)やうす雲濃紫(こむらさき)→「ほとゝぎす」(時鳥・杜鵑)
4-5 魚狗(かわせみ)や笹をこもれて水のうへ→「魚狗」(かわせみ)=翡翠(かわせみ、かはせみ)
4-6 田の畔に居眠る雁や旅つかれ → 「雁」
4-7 山陵(みささぎ)の吸筒さがす夕(ゆうべ)かな →山陵(みささぎ)=鵲(かささぎ)三秋か?
4-8 木兎(みみづく)も末社の神の頭巾かな →木兎(みみづく)=木菟(みみずく/みみづく) 三冬
4-9 おし鳥のふすまの下や大紅蓮(ぐれん)→おし鳥=鴛鴦(おしどり、をしどり)三冬
4-10 蒼鷹の拳はなれて江戸の色 →(青鷹・蒼鷹=あおたか・あをたか・そうよう)=鷹(たか)三冬
4-11 夕立や静(か)に歩行筏さし → 「鳥」が「ヌケ」になっている。
※「日の春をさすがに鶴の歩みかな(其角)」=(「丙寅初懐紙」)季語=日の春(新年)の「鶴」を「夕立」(夏)の「鶴」の句に反転化しているか?

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